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梅の雨の降る頃の、 何時かの夕暮れ。 ぱらぽら落ちる雨音が、 ひどく耳につく。 窓の向こうの景色を、 ふっと眺めてたら、 傘を差した横顔が、 愛おしく見えたの。 空虚(うつろ)な雨音から、 逃げ帰ってゆくように。 雫の落ちたのが聞こえたなら、 直ぐに走り出した。 私の心騒ぎを、 知らず降る雨と、 紺色の傘に隠れた、 想い人(あなた)の横顔。 二人だけの帰り道、 雨音が響いた。 傘の下の心臓が、 蕩けてしまいそう。 憎らしい雨音を、 止めれればいいのにな。 あなたの全部に酔いしれてた、 私の体中。 心の中の灯火(あなた)が、 今にも消えてしまいそう。 そんな愍み(ふあん)をかき消す、 勇気を振り絞った。 大好きな雨粒を、 失くしてしまわぬ様に。 雫の落ちたのが聞こえたとき、 傘を捨てて駆けた。 大好きなわたしのばしょ(あのかさ)を、 失くしてしまわぬ様に。 あなたに一言だけ伝えたい、 好きと、 好きと。 夏の花火で色づく、 君の笑い顔。