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曖昧になる水平線、 波打つ鼓動が耳に響く、 ただ口ずさむその旋律は、 にわか雨のように消え去っていく。 黄色に光る夜空の月が、 物思いを空にしてくれたら。 小さな願いは届かず、 春風が吹き付ける日々でした。 扉は朝焼けとともに開き、 何処かへと出した手紙を想う。 暮れる記憶に鍵を差し込む、 名の無いあの日の言葉。 雨傘をひとつ、あなたの元へ、 そっと立てかけました。 濡れた街並みに見下ろしたのは、 暖かな楓の花で。 夢路に咲いた言の葉が落ちて、 ぽとり、光が灯り、 雫へ呼んでいたのは、 色彩が浮かんだからでした。 ノイズのような風に目を瞑り、 輪廻の雨には名前をつけた。 残り香が舞い、 咲き誇る空、 聞こえたなら返事して! 雨傘をひとつ、あなたの元へ、 そっと立てかけました。 濡れた街並みに見下ろしたのは、 暖かな楓の花で。 瞬いたこの目に映るものの 全てが白く覆われて見えた 温もりの果て 瞳の奥の 宝石を見つめていた 雨傘をひとつ、あなたの元へ、 そっと立てかけました。 濡れた街並みに見下ろしたのは、 暖かな楓の花で。 雨傘を閉じてただ駆けていた、 水色の猫の鳴く方へ。 私が求めていた何かが、 その先に見えたから。 寂しさを、少しだけ、 誤魔化すようにして。 振り返った先に見えていた、 その姿に会えるから。 引けない手を引き歩いた。