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鼻歌が風を揺らした、 甘い音色が耳に芽吹いた。 霧のかかった空模様で、 苹果(りんご)に誘われて振り向いた。 薄く含羞んだ(はにかんだ)姿に、 撫でるように呼びかけている、 無邪気でただ愛おしくて、 吸い込むほど、 溶け出していた。 帰り道、 空を覆ったのは、 黄昏の匂いと 夕陽でした。 まるで砂糖のような雨粒が、 私だけ残して染めてくでしょう。 雨音を空に溶かした、 重なるリズムは心の内。 淡く湿った空模様に、 苹果(りんご)の東雲が染み付いた。 こえのさきで いとをむすび こころのすみに とめておくの はいのなかで のみこむおと いまもそこで みつめているの 帰り道、 空に祈ったのは、 陽炎の想いと 夕陽でした。 まるで砂糖のような雨粒が、 私だけ残して過ぎてくでしょう。 意味の無かった心が、 温もりを憶えて忘れずに。 奥底が旋律に呼応して、 動かぬ鍵を絆しました。 帰り道、 空に祈ったのは、 陽炎の想いと 夕陽でした。 まるで砂糖のような雨粒が、 私だけ残して過ぎてくでしょう。 帰り道、 空を覆ったのは、 黄昏の匂いと 夕陽でした。 まるで砂糖のような雨粒が、 私だけ残して染めてくでしょう。 鼻歌が息を揺らした、 甘い苹果(りんご)が私を見つめ。