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「そんなに怖がらないで」、 貴方が笑う度、 私の胸を締めて気づいた、 雨が上がる。 返した牙骨無さとは、 裏腹 照らされる背中が、 暖かくて良かった。 土を踏んで、 付かぬ筈の足跡が上を、 書いていた。 寂しくなっても、 何時か迷わぬように、 引き返しここに戻れるように! あの景は遠く濃く、 どこまでも長く見えていた、 追いかけても追いかけても、 逃げていく。 幻でさえ掴めた筈… あの景は遠く濃く、 何時の間に私の後ろへ、 振り返れど振り返れど、 隠れる。 希う程見えなくなった。 「悲しい顔をしないで」、 あなたはそう言うけれど、 わたしの目は捉えてしまった、 傷の全て。 時間が無いと悟って、 駆け寄る。 取られた手、 映った赤い水に、 染まって。 幾度目かの桜が散りゆく様を、 見届け思い出す、 あなたが好んだのもここだと。 「降りてきてよ」、 無邪気に木に登って、 歌ってくれた、 懐かしい響きをまた聞かせてよ。 錆びた躰を削いで。 明日付けた筈の足跡が消えて、 来た道 分からなくても、 代わり 遺した声で、 少しずつ導いてあげるから! あの景は遠く濃く、 どこまでも長く見えていた、 追いかけても追いかけても、 逃げていく。 幻でさえ掴めた筈… あの景は遠く濃く、 何時の間に私の後ろへ、 振り返れど振り返れど、 隠れる。 希う程見えなくなって、 忘れる程強く焼きついた。