見ていたような気がした、 足枷を引き摺る私、 開かずの戸にしがみ付いたまま、 鍵だけを捨てました。 走ったような気がしたのは、 腐敗した腕の生える道、 見せられていたのは、 私を撲る彼女の顔。 十の銭を押し込んで、 外れた受話器を握り緊め、 ドアを開ける音、 聞覚えの無い声に泣き叫ぶ私。 不快に音を鳴らした、 喘ぐ細い息、 概念化した彼女の仮名は、 捨てられてく、忘れられてく、 こちらを覗く東雲、 現の微睡み、 目を閉じる様に腕を伸ばし、 連れ込むのでしょう。 泪零す君の顔。 見ていたような気がしたのは、 迫り繰る時間だけ、 聞いていたような気がしたのは、 やけに煩い針の音。 走ったような気がしたのは、 誰も居ない砂利道で、 意味を求めるかの様に、 ただ追いかけているだけで。 凍る声を押し込んで、 ノックもせずただ押し開けて、 それは止め処なく流れていた、 宙ぶらりんと見開く眼。 ただ暖かに故落ちて行く、 誰も止め方がわからずに、 噛もうとした私の外套は、 誰に触れる事も無く透けてゆく。 不快に音をならした、 夜を彷徨って、 概念化した彼女の腕は、 私の腕をつまみ損ね。 こちらを覘く東雲、 現の微睡み、 沢山の私達が、 手を差し伸べてたのか。