: 1005
: 46
浦を走り抜けた百合鴎 その身 水に浮かべて 揺蕩う街並みは泡沫の世界に微睡む 濁流押し寄せる川の土手 独り 頭浮かべて 五月雨濡れそぼつ干潟を 千鳥は見ていた 海が歩き出した六月に 土地は 別れを告げて 月明り照らす道の土は泥濘み緩んで 背中を撫で伝う雨粒が もどかしくじれったい 清水の荒ぶる道の程を 千鳥は歩いた 谷川に燻る朝ぼらけ 朝露をひた隠し 兵どもの夢の跡は水底に埋もれ 鴉の行水は千代八千代 雨垂れ石を穿つ 鴨の社に立つ鳥居で 千鳥は休んだ 山の狭間を縫う人里の 土被る成れの果て 崩れた山を伝う流れは森を聞し召す 荒れ果て腐れた田畑の跡 飢えて 食うものもなし 錆びつく鈍色の轍を 千鳥は走った 頂に詰め寄る時化た海 水と 油が混じる 木も生えぬ岩肌を歩むは拙い足取り 重い身体鼓舞し骨を折り 旅の 掉尾を悟り 雀の涙の中津国 千鳥は泳いだ 遂に立ち去り鎮まる霖雨 顔を出す天の川 月も燈火もない世界を星の海を往く 静かな水面に千鳥独り 空に 白鳥独り 鶴の命は幾星霜 千鳥は沈んだ