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海に抱かれ 中津国 雲一つ無い 夏空に 顔を覗かす 山の峰 頭浮かべる 岩肌に 鵜の真似をした 雷鳥は 影も無いのに 日が照らす 湿った大地 久しくも 疲れた鶴は 踏みしめた 飛ぶ鳥落とす 引き潮に 取り残された 人里を 去る波跡を 薙ぎ毀ち 人の営み つゆも無し 湿り腐れた 森の跡 鵜の目鷹の目 意味成さず 食む物の無き 憂き日々を 寠れる鶴は 噛みしめた 神代も聞かぬ 猛る雨 鴨の社も 水の泡 谷川渡る 鶯も 鳴くまで待てど 梨礫 寝所へ飛ぶ 雁烏 夕暮れ照らし いとをかし 風のまにまに 床設け まどろむ鶴は 目を閉じた 葉月の照らす 川下り 泥濘み緩む 道の程を 清水は海と 似つかぬも 荒ぶる様は 瓜二つ 平野を浸す 濁水に 雨後の筍 宮の骨 驕れる人の 夜の夢 侘しい鶴は 見届けた 烏有に帰した 香具の山 元の木阿弥 海の際 何も変わらぬ 砂浜で 鴎立ち立つ 国を見る 潮満ちくれば 潟をなみ 沖波高む 夕凪に 無き葦の根を 思い遣り 哀しむ鶴は 立ち尽くす 競う船無き 水際に 役目を終えた 百合鴎 死にゆく島に 遺されて 濡れそぼつ頬 もどかしく 月は神無く 千鳥無く 残る鳥影 雲に入る 鶴の命も 鴨の脛 悟った鶴は 飛び去った