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あなたがいつか美しく描いた、 部屋の隅に丸められた鉛筆書きの楽譜を、 私はそっと優しく拾い上げ、 まるで桜のような歌声で口ずさんでみせたのです。 それは無機質な歌声で始まった、 他人のモノで象られた稚拙なだけの言葉で。 その時ふっと出会ったあなたの、 まるで夕日のような優しさが私を動かしたのです。 例え私の軌跡が全て無駄だったとしても、 あなたと過ごせた一秒一秒は、 決して無駄にしないから。 腕時計が無情にも出発の時刻を示した。 あの日と同じ駅舎の中で、 あの日と違う別れの時を。 眩しすぎる太陽も、 共に歌った旋律も、 傍で見えた風景も、 全部。 只の思い出になってしまうでしょう? 嗚呼。 接近表示が私を呼んでいる、 嫌だ、置いてかないで。 夜を照らす電灯も、 共に描いた想像も、 結びつけた愛情も、 いずれ。 只の思い出になってしまうから、 嗚呼。 最後の最後に名前を呼んでいた、 「全て日和の所為です。」 あなたがいつか美しく描いた、 部屋の隅に丸められた鉛筆書きの楽譜は、 これからずっと私の心で、 いつも希望となって響くでしょう。