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あなたはあの窓の辺で、 零れ落ちる簷滴を数える。 瀝る雨粒の音は、 囁き掛けてきました。 あなたはあの窓の辺で、 沈む夕日を見詰める。 暮れ泥む空の果ては、 探しても見付からない、 櫺の外に彷徨う 黒い鳥が歌う。 何かを寿ごうと、 喙を開けるのです。 差し込んだ光は誰が為、 闇を祓い、あなたを包んで、 旅立つ前夜に贈る贐、 風となりて去り逝くのです。 其処に見える群星瞬く。 夢と現の狭間に酔う。 何れ幻滅を知るのでしょう。 全て囈語の所為です。 わたしはこの窓の辺で、 冴え渡る十五夜月を夢む 潔い筈の景色は、 不調和が生じるのでした。 わたしはこの窓の辺で、 妄言の糸を紡ぐ。 東施効顰の努力が、 吹き飛ぶのも定めでしょう。 櫺の中に微睡む 白い花綻ぶ。 雨に霑らぬように、 窓櫺を閉めるのです。 失った過去に想いを馳せ、 傘を閉じて雨に打たれて、 空に聞こえる止まない霹靂、 何も残さずに消えるのです。 現世の光彩に目が眩む。 意味を無くした夢が続く。 何れまやかしに気付くでしょう。 囈語口遊むのです。 輝いた涙は誰が為、 狗尾草、風に揺られて、 晴れない憂いを帯びた足枷、 清らかな水で濯ぐのです。 心悲しげにそっと微笑む、 偏に咲く花を見守る。 何れ夢幻から覚めるでしょう。 全て囈語の所為です。 絆された心は瘡痍だらけ、 外を見上げ、雲翳の上。 降り注ぐ霧雨濡れる褥、 横たわって目を瞑るのです。 空虚吟ずれば悲しみが増す。 解脱の境地へ導く。 何れ幻に還るでしょう。 全て囈語の所為です。