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いつかまた逢えると信じて、 私は旅立った。 一人になっても構わない、 進む先があるから。 無機質な夕方の、 街ふらついてく。 ぼやけた記憶を辿ろうとも、 余熱だけが残る。 風の溜め息 運んだ便り。 漂う茉莉花の匂いに、 現を抜かした。 茨生い茂る道でも、 乗り切れる気がした。 一人になんてさせないよと、 君が言ってくれたから。 真っ暗で険しい闇路、 肩並べて歩こう。 蹴躓いても凹まない、 君が傍に居るから。 夢に耽ったことに、 ふと気付いた時。 縺れた心を解しても、 頬に涙が伝う。 暮れ行く空の 歌を聞かせて。 夜さりの槐夢編みながら、 落寞と響いた。 心躍る物語の 続きを話そうよ。 天霧る霞に溺れたら、 悲しみが癒えるかな。 もう逢えないと知っていても、 振り返ることなく、 夢に浸っても悔やまない、 帰る場所がないから。 朧月出づる可惜夜、 行き泥む夜行列車。 窓越しに消える景色さえ、 思い出せなくなった。 果てしなく続く旅路に、 徒花散り急ぐ。 夢から醒めても夢の中、 訪れぬ朝を待とう。 「それじゃあ、いつかまた逢おうね。」 そっと別れ告げた。 未来のことなど知り得ない、 前向いて行けばいい。 尤もらしく理屈を捏ね、 空言繰り返す。 嘘か実かに意味がない、 夢でしか逢えないから。