余寧
ガガンボ | 1 | |
45 | 朝日の差し込む へやのすみで 荷物を背負い 息をはき 時計を見た ドアをしめて カギをまわし ふと振り向いたら 白いカベのまんなかに 羽虫がいました きみの あしがもげて はねがほどけて 川にちらばって そして ひっしにもがいて よどみにしずんでく かなしいね ガガンボ きみの あしがとれて はねがちぎれて 風にとばされて でもね 広げたって 花びらになれないよ もういいよ ガガンボ ほどなくしてから ペンを置いて カバンの中にもどしたら 影がゆれた カーテンのすきまにもれていた 光がまぶしく しめようと近づいたら 羽虫が見ていた きみの あしがおちて うでがころげて からだが砕けて 木々がさわぎたてて 声をかき消していく 泥の中 ガガンボ きみの あしが朽ちて うでがくずれて からだが破れて いつも空が見てる 緑がこっちを見てる くやしいよ ぼくの あしがおちて うでがころげて からだが砕けて どこにもない破片が 刺さって毒がまわる 血がながれている 夏のぬるい風 バラバラの光が しずむ昼下がり 水のにおい 空の色がくすんでいった 消えたのか ガガンボ |